定年後再雇用は無期転換ルールに注意|『第二種計画認定』で安心できる制度づくり
「うちのベテラン職人には、定年後も長く活躍してもらいたい」
そう考える経営者は少なくありません。技術や知識、取引先との信頼関係は、何年もかけて積み上げられた会社の財産です。実際、多くの中小企業で定年後の再雇用が当たり前になっています。
ちょうど今の時期は、毎年6月1日現在の状況を報告する「高年齢者雇用状況等報告」の作成シーズンにあたります。この報告書を作成する中で、自社で働く高年齢者や定年後再雇用者の人数を改めて確認し、「思った以上に再雇用者が増えている」と感じる企業も少なくありません。
しかし、ここで意外と見落とされがちな落とし穴があります。それが「無期転換ルール」です。
定年後の再雇用者であっても、有期労働契約を結んで雇用を継続していると、契約年数が通算5年を超えた時点で、本人の申込みにより無期労働契約への転換が発生してしまう可能性があります。「定年退職した人だから関係ない」と思い込んでいると、思わぬ形で契約管理が複雑になり、労使トラブルの火種になることもあります。
この記事では、定年後再雇用と無期転換ルールの関係、そしてその対応策となる「第二種計画認定」制度について、申請の流れや実務上の注意点まで、埼玉県春日部市を拠点に全国の中小企業の労務管理を支援するJinji社会保険労務士法人が分かりやすく解説します。
この記事でわかること
本記事では、次の内容を解説します。
- 定年後再雇用にも無期転換ルールが適用される理由
- 第二種計画認定の概要と対象者
- 認定申請の流れと必要書類
- 認定後に必要な雇用契約書・就業規則の整備
- 定年後再雇用制度を安心して運用するためのポイント
詳しく解説する前に、本記事の内容を8コマ漫画でまとめました。先に全体像をつかみたい方は、ぜひご覧ください。

ここからは、漫画でご紹介した内容を一つひとつ詳しく解説していきます。
1. そもそも「無期転換ルール」とは
無期転換ルールとは、労働契約法第18条に基づく制度で、同一の使用者との有期労働契約が通算5年を超えて反復更新された場合、労働者からの申込みによって、その契約が無期労働契約に転換されるという仕組みです。
契約社員やパート、アルバイトなど名称を問わず、有期契約で働くすべての労働者が対象となり、申込みがあった場合、会社側はこれを拒否することができません。平成25年4月の施行以来、すでに多くの企業で無期転換社員が生まれていますが、制度の詳細については厚生労働省「無期転換ルールについて」にも詳しく掲載されています。
2. 定年後の再雇用にも、原則「無期転換ルール」は適用される
ここで多くの経営者が誤解しがちなポイントがあります。「無期転換ルールは若い契約社員のための制度であって、定年後の高齢者には関係ない」という思い込みです。
実際には、定年後に有期契約で継続雇用される高齢者についても、原則として無期転換ルールは適用されます。
例えば、60歳で定年を迎え、1年単位の有期雇用契約で再雇用を繰り返しているケースを考えてみましょう。65歳の時点で契約年数が通算5年を超えていれば、本人が申し込めば無期労働契約に転換されることになります。
高年齢者雇用安定法により70歳までの就業確保措置が事業主の努力義務とされている今、再雇用期間は年々長期化する傾向にあります。それに伴い、この「5年の壁」に直面する企業も増えているのです。さらに、定年後再雇用者の待遇については同一労働同一賃金の観点からも注意が必要で、令和8年10月には関連する制度改正も施行されます(詳しくは「同一労働同一賃金」改正(令和8年10月施行)をご覧ください)。無期転換と待遇差の問題は、定年後再雇用制度を整える上でセットで検討すべきテーマです。
3. 『第二種計画認定』とは?無期転換ルールの特例
こうした定年後再雇用特有の事情に対応するために設けられているのが「第二種計画認定」です。
これは「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」(有期雇用特別措置法)に基づく制度で、事業主が定年後の高齢者に対する適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けることで、その認定計画に基づき定年後引き続いて雇用される期間については、無期転換申込権が発生しないという特例を受けられるものです。
対象となる労働者には条件がある
注意したいのは、この特例の対象が「無期労働契約で自社の定年を迎え、その後も引き続き雇用される労働者」に限られる点です。次のような労働者は対象外となります。
- 有期労働契約のまま定年年齢(契約更新の上限年齢)を迎えた労働者
- 他社(特殊関係事業主を除く)で定年退職し、新たに有期契約で雇用された労働者
- 定年に達する前に無期雇用から有期雇用へ転換した労働者
「第二種計画認定を受けているから、うちは無期転換の心配は一切ない」と安心しきってしまうと、実は対象外の従業員がいて思わぬ落とし穴にはまるケースもあるため、自社の従業員の雇用履歴を正確に把握しておくことが大切です。
会社・労働者それぞれのメリット
第二種計画認定を受けることで、会社側には次のようなメリットがあります。
- 無期転換を気にせず、契約期間や更新条件を柔軟に設定できる
- 健康状態や業務量に応じて、契約更新の可否を適切に判断できる
- 「65歳まで」「70歳まで」といった第二定年を明確に運用できる
一方、労働者側にとっても、雇用確保措置のもとで定年後の再雇用が安定的に継続されるという安心感があります(無期転換権がないことへの不安は、制度の趣旨をきちんと説明することが重要です)。冒頭の漫画でもご紹介した通り、第二種計画認定は単に無期転換を避けるための手続きではなく、会社と従業員が安心して雇用を継続するための制度設計ともいえます。
4. 第二種計画認定の申請の流れ
申請の大まかな流れは、次の3ステップです。
- 計画の作成:定年後も継続雇用する従業員に対する雇用管理上の措置(高年齢者雇用推進者の選任、健康管理への配慮、職場環境の整備など)を検討し、計画に盛り込みます。
- 都道府県労働局への申請:「第二種計画認定・変更申請書」と添付書類(就業規則の写し、高年齢者雇用状況報告書の写しなど)を、本社・本店を管轄する都道府県労働局(または労働基準監督署経由)に提出します。
- 労働局による審査・認定:内容に問題がなければ認定通知書が交付され、特例の適用が受けられるようになります。
申請書類の作成や労働局とのやりとりは、社会保険労務士が事務代理として対応することも可能です。書類の不備による申請のやり直しを避けるためにも、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。なお、申請窓口の詳細や様式は埼玉労働局「無期転換ルールと特例について」のページでも確認できます。
5. 認定を受けたら終わりではない|書面明示義務と就業規則・雇用契約書の整備
第二種計画認定は、認定を受ければそれで終わりではありません。実務上は、認定後の雇用契約書・労働条件通知書への明示や、就業規則との整合性確認まで行って初めて、安心して運用できる制度になります。
特例の対象となる労働者については、労働契約の締結・更新のたびに「定年後引き続いて雇用されている期間が、無期転換申込権が発生しない期間であること」を、雇用契約書や労働条件通知書に書面で明示する義務があります。この明示を怠ると、紛争防止の観点から不利な状況を招くおそれがあります。
また、認定の前提となる定年制や継続雇用制度の規定が、就業規則にきちんと反映されているかどうかも重要なチェックポイントです。第二定年(例:65歳から70歳への延長)を新たに設ける場合は、就業規則の改定とあわせて計画の変更申請が必要になることもあります。
就業規則の整備は、定年後再雇用に限らず労務管理全体の土台となるものです。法改正への対応漏れがないか、年次有給休暇とは?付与日数・5日取得義務・パート比例付与・退職時の扱いまで社労士が解説の記事も参考に、一度自社の規定を見直してみることをおすすめします。
6. こんなときは要注意|第二種計画認定の落とし穴
実際の相談現場でよく見られる注意点を整理しておきます。
- 認定の効力が及ぶのは「自社で定年を迎えた人」のみ:60歳以降に新たに中途採用した有期契約の従業員には、第二種計画認定の効力は及びません。通常の無期転換ルールがそのまま適用されます。
- 定年年齢を引き上げる場合は変更申請が必要になることがある:正社員の定年を60歳から65歳に引き上げるなど、認定内容に変更が生じる場合は、変更申請の手続きを忘れずに行う必要があります。
- 経過措置はすでに終了している:継続雇用制度の対象者を限定する基準を用いた経過措置は令和7年3月末で終了しており、現在は希望者全員を対象とする制度設計が前提となっています。
これらのポイントは、自社だけで判断するとリスクが残りやすい部分です。制度の詳細は厚生労働省 無期転換ポータルサイトでも確認できますが、自社の状況に当てはめた判断には専門家のチェックが欠かせません。
7. 定年後再雇用を「安心の制度」にするための、もう一段上の対応
第二種計画認定と就業規則・雇用契約書の整備に加えて、定年後再雇用をより安心できる制度にするためには、次のような視点も重要です。
- 70歳までの就業確保措置の検討:努力義務とされている70歳までの雇用確保について、自社の体力に合わせて段階的に制度化していく
- 年金との関係の整理:再雇用後の給与設計は、在職老齢年金の基準とも関わります。在職老齢年金の基準額が65万円に引き上げ|企業が知っておくべきポイントの記事もあわせてご確認ください。
- 退職給付制度の見直し:定年後の生活設計を支える手段として、企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入・活用する企業も増えています。企業型DC(マッチング拠出・選択制)・iDeCo・NISAの違いとは?で制度比較をご紹介していますので、退職金制度の見直しを検討中の企業様はぜひご覧ください。
これらを組み合わせることで、「無期転換を回避するための制度」から一歩進んで、「ベテラン社員が安心して長く働ける、会社にとっても持続可能な制度」へと発展させることができます。
こんな企業は第二種計画認定を検討しましょう
次のような企業では、第二種計画認定の取得を検討する価値があります。
- 定年後も65歳を超えて再雇用している
- 1年ごとの有期雇用契約で再雇用を続けている
- ベテラン社員に長く活躍してもらいたい
- 無期転換ルールへの対応に不安がある
- 定年後再雇用規程や雇用契約書を見直したい
特に、定年後再雇用者が増えている会社では、無期転換ルールへの対応だけでなく、就業規則・雇用契約書・更新基準を一体で整理しておくことが重要です。
まとめ
定年後再雇用制度を安心して運用するためには、無期転換ルールへの対応だけでなく、第二種計画認定、雇用契約書、就業規則を一体で整備することが重要です。ポイントは、次の3点です。
- 定年後の再雇用にも、原則として無期転換ルールは適用される
- 「第二種計画認定」を受けることで、定年後継続雇用される期間については無期転換申込権の発生を回避できる
- 認定を受けたあとも、就業規則・雇用契約書の整備まで行ってこそ、会社と社員双方にとって安心できる制度になる
制度自体はシンプルですが、対象範囲の判断や申請書類の作成、就業規則との整合性確認など、実務上は専門的な知識が求められる場面が多くあります。
Jinji社会保険労務士法人にご相談ください
Jinji社会保険労務士法人では、第二種計画認定・変更申請の代行はもちろん、定年後再雇用に関する雇用契約書・就業規則の整備、さらに企業型DCを活用した退職給付制度の設計まで、ワンストップでサポートしています。
定年後再雇用制度の見直しや第二種計画認定をご検討中の企業様は、お気軽にご相談ください。貴社の雇用状況や就業規則の内容を踏まえ、制度設計から申請手続き、運用面の整備まで実務に即してサポートいたします。
現在他の社労士事務所と顧問契約を結んでいる企業様で、対応にもう一歩踏み込んだ相談がしたいという場合は、社労士の変更を検討するときに知っておきたいポイントの記事もぜひ参考にしてみてください。

