【令和8年10月施行】カスハラ・求職者等セクハラ防止が義務化|企業が行うべき実務対応を社労士が解説
令和8年10月1日、ハラスメント対策に関する法改正が施行されます。新たに事業主の義務となるのは、「カスタマーハラスメント(カスハラ)防止措置」と「求職者等セクシュアルハラスメント(いわゆる就活セクハラ)防止措置」の2つです。
「うちはクレーム対応くらいしかないから関係ない」「採用担当者だけの話でしょう」——そう思っていませんか。
実は今回の改正は、特定の業種や大企業だけを対象とするものではありません。従業員を雇用している事業主は、顧客等との接点や採用活動の状況に応じて、就業規則や社内マニュアルの見直し、相談窓口の設置・見直し、採用面談やOB・OG訪問のルール整備などが必要になります。
厚生労働省は令和8年4月、企業から寄せられる疑問に答える形で、「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」を公表しました。本コラムでは、この厚労省Q&Aの内容を踏まえながら、経営者・人事労務担当者が施行日までに何を整えるべきかを分かりやすく整理します。
この記事でわかること
- 令和8年10月施行の改正で、何が新たに義務になるのか
- カスハラ対策で整備すべき方針・相談体制・対応ルール
- 求職者等セクハラ対策で必要な面談ルール・相談窓口・周知方法
- 厚労省Q&Aで特に押さえたい実務上の注意点
- 施行日までに企業が準備すべき実務対応
なお、以前の記事「来年10月から「カスタマーハラスメント対策」が義務化へ」では法改正の速報をお伝えしましたが、今回は施行直前の実務対応版として、より具体的な内容に踏み込みます。
今回の改正で変わること(全体像)
今回の改正の中心は、次の2つです。
- ①カスタマーハラスメント防止措置の義務化(労働施策総合推進法第33条)
- ②求職者等セクシュアルハラスメント防止措置の義務化(男女雇用機会均等法第13条ほか)
今回の改正により、両分野について事業主が講ずべき措置が法律上の義務として定められました。企業は、施行日までに相談体制や社内ルールの整備状況を確認しておく必要があります。
<カスハラ対策と求職者等セクハラ対策で整備すべき項目>
| 整備項目 | カスタマーハラスメント対策 | 求職者等セクハラ対策 |
| 方針の明確化・周知 | 顧客等への毅然とした対応方針を明確化し、全従業員に周知 | 求職者等への性的言動を許さない方針を明確化し、全従業員に周知 |
| 相談体制の整備 | 顧客対応に関する相談窓口の設置(他ハラスメント相談窓口との一元化も可) | 求職者向け相談窓口の設置(人事担当者以外の者を担当者とすることも選択肢) |
| 発生後の対応 | 事実確認、行為者への警告・出入り禁止等の対応方針の整備 | 事実確認、行為者への処分等の対応方針の整備 |
| 現場ルールの整備 | 顧客対応マニュアル、録音・録画の運用ルール | 面談の時間・場所・SNS利用等のルール整備 |
| 外部への周知 | 顧客等に対応方針を周知することも有効 | 面談時の留意事項や相談窓口を、ホームページ・パンフレット等により求職者等へ周知 |
なお、既に義務化されているパワーハラスメントについても、今回の厚労省Q&Aで判断基準が具体的に整理されました。こちらは法改正ではなく解釈の明確化ですが、実務上見落とされがちなポイントもあるため、本コラムの後半で補足します。
また、令和8年10月1日にはパート・有期雇用労働者に関するルール改正も予定されています。詳しくは「同一労働同一賃金」改正(令和8年10月施行)」をご参照ください。
【新設】カスタマーハラスメント防止措置の義務化
カスハラの定義と「3つの要素」
労働施策総合推進法第33条により、事業主は職場におけるカスタマーハラスメントについて、相談体制の整備など雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられます。
カスハラに該当するかどうかは、次の3つの要素をすべて満たすかどうかで判断されます。
- 職場において行われる顧客等の言動であること
- その労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
- その言動により、労働者の就業環境が害されること
ここで注意したいのが「顧客等」の範囲の広さです。まだ契約していない潜在顧客、施設の近隣住民、取引先の担当者からの言動についても、3つの要素を満たせばカスハラに該当し得ます(厚労省Q&A問1〜問3)。
そのため、直接顧客対応を行う部署だけの問題とせず、全従業員に基本方針を周知したうえで、顧客等と接する可能性のある従業員には、業務内容に応じた研修を行うことが重要です(問9・更問)。
事業主が実際に取れる対応策
厚労省Q&Aでは、改正法によって事業主に新たな法的権限が付与されたわけではないことが明確にされています。改正法は、事業主に雇用管理上必要な措置を義務付けるものであり、各社があらかじめ定めておくべき対処例として、次のような対応が示されています(問18)。
- 労働者を一人で対応させず、必要に応じて管理監督者が代わって対応する
- 十分な説明をしても要求が繰り返される場合は、時間を区切って退店を求める、または電話を切る
- 暴行・傷害・脅迫など犯罪に該当し得る言動には警察へ通報する
- 特に悪質なケースには警告文を発出し、店舗・施設への出入りを禁止する
これらは、法改正によって新たに認められた対応ではなく、従来から可能だった対応を、指針の中で「対処の例」として整理したものです。企業に求められるのは、こうした対処方針をあらかじめ社内で定め、現場へ周知しておくことです。
また、既存の懲戒規定で対応できる場合には、必ずしもカスハラ専用の就業規則規定を新設する必要はないとされています(問19)。
ただし、既存の就業規則で懲戒対応が可能な場合でも、相談窓口の運用、顧客対応の手順、録音・録画の取扱いなどについては、ハラスメント防止規程、対応マニュアル、プライバシーポリシー等に、必要な内容を整理しておくことが重要です。
顧客とのやり取りを録音・録画し、取得する情報が個人情報に当たる場合には、利用目的の特定と通知・公表が必要です(問10)。
なお、その場で必ず録音・録画を口頭告知しなければならないわけではありませんが、防犯カメラのように、本人が撮影・記録されていることに気づきにくい方法で情報を取得する場合には、掲示や案内表示などにより、録音・録画を行っていることが分かるようにしておく必要があります(問11)。
実務上の注意点:対応を怠ると管理職個人の責任が問われることも
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、企業が適切な対応をとっていなかった場合、被害を受けた従業員から会社や管理監督者が責任を追及されるリスクがあることを、実際の裁判例を交えて紹介しています。
同マニュアルが取り上げる事例の一つは、保護者からの理不尽な言動を受けた教諭について、その管理監督者である校長の対応が問われたケースです。
カスハラ対策は「顧客からクレームを受けた従業員を守るための仕組み」であると同時に、「対応を怠った場合に会社や管理職が負うリスクを減らすための仕組み」でもあります。マニュアルには対応フローの具体例も掲載されているため、社内マニュアル整備の参考としてご活用ください。

出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策リーフレット」
【新設】求職者等セクシュアルハラスメント防止措置——採用担当だけでは足りない
今回の改正でもう一つ見落とされがちなのが、「求職者等セクシュアルハラスメント」の防止措置義務です。これは、自社の採用活動やインターンシップに参加する学生・求職者に対するセクハラを防止する義務で、多くの企業にとって新たな対応が必要になります。
「求職者等」「求職活動等」の範囲は思ったより広い
「求職者等」には、次のような人が含まれます(問29)。
- 就職説明会やインターンシップの参加者
- OB・OG訪問で自社の労働者を訪ねてくる学生
- 教育実習・看護実習などの実習生
「求職活動等」は、採用面接や説明会といった典型的な場面だけでなく、OB・OG訪問のための飲食店での懇親、貸し会議室での説明会なども含まれます(問30)。
つまり、人事部だけでなく、OB・OG訪問への対応など、採用活動に係る現場社員も対象になり得るということです。
なお、授業の一環としての社会科見学や、専ら教育目的で行われる企業講演会などの参加者は、「求職者等」には含まれません(問29)。
また、人員が不足した際にのみ中途採用を行うなど、定期的に採用活動をしていない企業であっても対応が免除されるわけではありません。求職者等と労働者が接する機会がない間は、すべての措置を講じていなくても差し支えないとされていますが、採用活動を開始し、説明会や面接を実施することになった時点では、必要な措置を整えておく必要があります(問37)。
つまり、「今は採用予定がないから関係ない」ではなく、採用を始める時点までに必要なルールを整えておくことが重要です。
企業が整備すべき具体的なルール
求職者等と面談を行う際には、次のようなルールをあらかじめ定めておくことが望ましいとされています(問33)。
- 面談の時間・場所を指定する
- 複数人で対応するなど、実施体制を定める
- やり取りに使用するSNSの種類を指定する
相談窓口の担当者は人事担当者でも差し支えありませんが、求職者等が人事担当者への相談をためらう可能性もあるため、人事担当者以外の者を相談窓口の担当者とすることも考えられます(問34・更問)。
さらに実務上重要なのが、面談ルールや相談窓口を社内に周知するだけでなく、求職者等本人にも伝わる形にしておくことです。
厚労省Q&Aでは、面談等に関する留意事項をホームページやパンフレット等の広報手段を用いて求職者等に周知することが必要とされています(問33)。採用サイトや募集要項、説明会の配布資料などに、相談窓口の連絡先や面談時のルールを明記しておくとよいでしょう。
中途採用や新卒採用を行う企業は、面談ルールの整備、担当者への研修、相談窓口の設置・周知といった一連の対応を、採用マニュアルや社内規程等に反映させておく必要があります。
なお、面接官による高圧的な言動といった「パワハラに類する行為」については、今回の改正で義務化されたセクハラ対策とは異なり、方針への記載や相談対応を行うことが「望ましい取組」として位置づけられています(問36)。
義務ではありませんが、セクハラ対策の相談窓口や体制を活用し、あわせて対応しておくことは、求職者からの信頼にもつながります。
先進企業の取り組み事例
- 積水化学工業株式会社:就活ハラスメントの背景に応募者の個人情報の悪用があった実態を踏まえ、面接官に開示する学生の個人情報の一部を制限。人権尊重とハラスメント防止に関する説明も面接官へのレクチャーに組み込んでいます。
- 三井物産株式会社:内々定者への「オワハラ(就活終われハラスメント)」に着目し、採用活動期間中に専用の相談ホットラインを開設。あわせてオワハラの具体例を紹介する動画を公開し、学生が被害を認識しやすい環境を整えています。
出典:厚生労働省委託事業「就活ハラスメント防止対策企業事例集」

出典:厚生労働省「求職者等セクシュアルハラスメント対策リーフレット」
補足:パワーハラスメントの判断基準も併せて整理されました
今回の改正の主役はあくまでカスハラ・求職者等セクハラの2つですが、既に義務化されているパワーハラスメントについても、同じ厚労省Q&Aで解釈が明確化されています。
法改正ではなく既存ルールの整理ですが、実務上誤解されやすい点として、次の3つは押さえておきたいところです。
- 同僚・部下からの言動もパワハラになり得る(問22)
- 性的指向・ジェンダーアイデンティティの暴露を強要・禁止することは典型例に該当する(問24)
- 勤務時間外の懇親会も、実質的に職務の延長と言える場合は「職場」に含まれ得る(問25)
新入社員研修や歓迎会シーズンには、「勤務時間外だから関係ない」という誤解によるトラブルが起きやすいものです。新入社員に関するトラブル対応については「4月に急増する新入社員トラブルと会社が取るべき実務対応」でも詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
対応を怠るとどうなる?労働局による指導・勧告と企業名公表のリスク
事業主が必要な措置を講じていない場合、都道府県労働局から助言・指導・勧告の対象となり得ます。さらに、勧告を受けても従わない場合には、企業名が公表される可能性があります。
企業名が公表されると、採用力の低下や取引先からの信頼低下など、企業経営に大きな影響が及ぶおそれがあります。特に中小企業にとっては、金銭的な負担以上に、信用面への影響が深刻になる可能性があります。
また、労働局から措置義務への対応状況について報告を求められたにもかかわらず、報告をしなかった場合や虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料の対象となる可能性があります。
今すぐ着手すべき実務対応チェックリスト
施行日である令和8年10月1日までに、企業が準備しておきたい事項は次のとおりです。
- カスハラ・求職者等セクハラを含めたハラスメント防止方針の策定・周知(全従業員対象)
- 相談窓口の設置・見直し(一元窓口とするか、カスハラ・求職者等セクハラを別に設けるかの検討)
- 就業規則・懲戒規定の点検(既存規定で対応可能か、新設が必要かの整理)
- 顧客対応マニュアルの整備(悪質クレームへの対応フロー、出入り禁止措置の基準)
- 録音・録画運用ルールとプライバシーポリシーの見直し(個人情報保護法対応)
- 採用担当者・OB/OG訪問対応者向けの面談ルール・研修の実施
- 採用サイト・募集要項・説明会資料等での求職者等向けの相談窓口・ルールの周知
- 管理職向けパワハラ研修の内容更新(同僚間の言動、勤務時間外の懇親会等を反映)
- 全従業員への周知・研修の実施記録の整備
これらは一つひとつは難しくありませんが、「規程の整備」「相談窓口の実効性確保」「全社への周知」を並行して進める必要があります。特に人事担当者が少ない中小企業では早めに着手することが重要です。
まとめ——施行後に慌てないために
令和8年10月の改正では、カスハラ対策と求職者等セクハラ対策という2つの新しい措置義務が設けられます。
対象範囲は想像以上に広く、就業規則や社内規程の見直しだけでなく、相談窓口、顧客対応マニュアル、採用面談ルール、求職者への周知など、実際に機能する仕組みを整えることが必要です。
また、既存のパワーハラスメントについても判断基準が具体化されています。今回の法改正を、社内のハラスメント防止体制全体を見直す機会として活用するとよいでしょう。
Jinji社会保険労務士法人にご相談ください
Jinji社会保険労務士法人では、カスハラ対策・求職者等セクハラ対策に関する就業規則の整備、相談窓口の設計、採用ルールの見直し、社内研修まで、企業の実情にあわせてサポートしています。
また、ハラスメント対策とあわせて、従業員の定着・エンゲージメント向上のために企業型DC(確定拠出年金)を活用した福利厚生の見直しをご相談いただくケースも増えています。企業型DCの仕組みや導入メリットについては、「企業型確定拠出年金(DC)とは?」の記事もあわせてご覧ください。
令和8年10月施行に向けて、カスハラ・求職者等セクハラ対策や就業規則・相談体制の見直しをご検討中の企業様は、貴社の業種や現在の規程・運用状況を踏まえ、必要な対応を整理したうえで実務に即してサポートいたします。
▶ お問い合わせはこちら
参考資料
- 厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について(令和8年4月24日)」
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策リーフレット」
- 厚生労働省「求職者等セクシュアルハラスメント対策リーフレット」
- 厚生労働省委託事業「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2022年2月)
- 厚生労働省委託事業「就活ハラスメント防止対策企業事例集」

