最低目安賃金+55円で全国平均1,176円へ 発効日までにやる賃金チェック3ステップ
2026年7月28日、中央最低賃金審議会が2026年度(令和8年度)の地域別最低賃金の引上げ額の目安を答申しました。目安どおりに改定されれば、全国加重平均は1,176円。現在の1,121円から55円の引上げです。この記事では、中小企業の経営者・人事労務のご担当者に向けて、目安の中身と、発効日までに社内で済ませておきたい賃金チェックの手順を整理します。近年は上昇幅が大きく、パート・アルバイトだけでなく、正社員や月給制の社員の賃金が最低賃金を下回っていないかの確認も必要になっています。
2026年度の目安は「+55円」、全国加重平均1,176円
答申されたランク別の引上げ額の目安は、次のとおりです。

- Aランク(埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・大阪の6都府県):54円
- Bランク(28道府県):56円
- Cランク(13県):56円
大都市圏を含むAランクの目安が、BランクとCランクを下回っている点が今年度の特徴です。地域間の差を縮める方向での目安になっています。
仮に目安どおりに各都道府県で改定された場合、2025年度の額との単純計算では次のようなイメージになります。
- 埼玉県:1,141円→1,195円程度
- 東京都:1,226円→1,280円程度
- 大阪府:1,177円→1,231円程度
- 北海道:1,075円→1,131円程度
ここで押さえておきたいのは、目安はあくまで「目安」で、実際の金額ではないということです。この後、各都道府県の地方最低賃金審議会が地域の実情を踏まえて審議し、最終的には各都道府県労働局長が金額を決定します。実際、2025年度は目安が63円だったのに対し、全国加重平均での改定実績は66円と目安を上回りました。目安より高い金額で決着する県も出てきます。自社の所在地の正式な金額は、8月以降に各都道府県労働局から発表される答申を必ず確認してください。
発効日は「10月から」とは限らない
もうひとつ、見落とされがちなのが発効日です。かつては「10月から改定」がほぼ共通でしたが、近年は事情が変わっています。
2025年度の実績を見ると、東京都は10月3日、大阪府は10月16日と例年どおりだった一方、埼玉県は11月1日、熊本県・大分県・福島県は翌年1月1日、群馬県は3月1日、秋田県にいたっては2026年3月31日と、半年近い開きがありました。引上げ幅が大きい県ほど、企業の準備期間を考慮して発効日を後ろ倒しにする傾向があります。
こうした混乱を受けて、2026年度は発効日をできるだけ10月に揃える「発効日の適正化」が検討課題として挙げられています。とはいえ、最終的な発効日は8月以降に各都道府県の審議会で決まるため、確定するまでは県別に確認が必要な点は変わりません。
対象になるのはどんな会社か:パートだけの話ではない
最低賃金は、パート・アルバイトだけに適用されるルールではありません。正社員も、月給制の社員も、日給制・歩合給制の社員も、すべて対象です。業種や会社の規模による例外もありません。
実務で確認が必要になりやすいのは、次のようなケースです。
- 月給制の若手社員・新卒:月給を1か月平均所定労働時間で割ると、意外と最低賃金ギリギリのことがあります
- 複数拠点・出向・在宅勤務:適用されるのは原則として勤務地(事業場の所在地)の最低賃金です
- 派遣労働者:派遣元ではなく派遣先の事業場がある地域の最低賃金が適用されます(最低賃金法第13条)
都道府県をまたいで働く場合の考え方については、当事務所の「最低賃金」の適用、都道府県をまたぐ場合についてでも取り上げています。
いちばんの落とし穴は「比較に使えない手当」
ここが実務で最も間違いが起きるところです。支給している賃金のすべてを最低賃金と比べられるわけではありません。次の賃金は、最低賃金の計算から除外されます。
- 臨時に支払われる賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 時間外割増賃金
- 休日割増賃金
- 深夜割増賃金(通常の賃金計算額を超える部分)
- 精皆勤手当、通勤手当、家族手当
特に6番目は要注意です。「通勤手当を足せば時給換算で最低賃金を超えているから大丈夫」という説明を耳にすることがありますが、これは通りません。逆に、役職手当や資格手当、職務手当など、毎月決まって支払われるその他の手当は算入できます。また固定残業手当(みなし残業代)を支給している場合は、その金額を除外した上で時間額を算出してください。何が入って何が入らないのかを、給与明細の項目ごとに仕分けしておくことが第一歩です。
比較の計算方法は次のとおりです。
- 時間給制:時間給≧最低賃金額(時間額)
- 日給制:日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
- 月給制:月給÷1か月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
なお、最低賃金額に達しない賃金を定めた労働契約は、その部分が無効となり、最低賃金額で契約したものとみなされます。不足分は遡って支払う義務が生じ、地域別最低賃金を下回った場合には50万円以下の罰金が定められています(最低賃金法第4条・第40条)。
発効日までにやる「賃金チェック」3ステップ
ステップ1:最低額の人を洗い出す
全従業員の賃金を時間額に換算し、除外される手当を除いたうえで、低い順に並べます。ここで新しい最低賃金を下回る人、または差額が数十円しかない人をリストアップします。改定は毎年続く見込みなので、「今回はギリギリセーフ」の人も来年の候補として押さえておきます。
ステップ2:賃金テーブル全体への波及を見る
最低額の人だけを引き上げると、勤続年数の長い社員や現場リーダーとの差が消え、賃金の逆転・圧縮が起こります。これは現場の不満やモチベーション低下に直結します。下だけを持ち上げるのではなく、賃金テーブル全体をどう底上げするか、経営判断として先に方針を決めておくことをおすすめします。あわせて、社会保険料や割増賃金の単価、賞与算定基礎にも影響が出るため、年間の総人件費で試算しておくと精度が上がります。
ステップ3:原資の手当てと、書類・通知の更新
原資については、価格転嫁の交渉に加えて、設備投資などとセットで事業場内最低賃金を引き上げた場合に費用の一部が助成される業務改善助成金のような制度も選択肢になります。申請には計画段階からの準備が必要なので、賃上げを実行してから調べ始めると間に合わないことが多いです。
実務面では、対象者の賃金を引き上げたうえで、雇用契約書(労働条件通知書)を更新し、本人へ通知するところまで行うとベストです。なお、初任給額や賃金テーブルなど具体的な金額を規程に明記している場合は、その部分の見直しが必要になります。
すぐ使える|最低賃金チェックシート
社内で確認するときに、そのまま使える簡易チェックリストです。拠点ごとに1枚ずつ作成してください。
■ 対象事業場:____(都道府県:__/新最低賃金:__円/発効日:__)
☐ 1. 全従業員の賃金を時間額に換算(除外手当を外す:精皆勤・通勤・家族手当、各種割増、賞与)
☐ 2. 新最低賃金を下回る人・差額50円未満の人を特定(該当:__名)
☐ 3. 賃金の逆転・圧縮と、年間総人件費への影響を確認
☐ 4. 対象者の賃金を改定し、雇用契約書(労働条件通知書)を更新・通知
☐ 5. 業務改善助成金など活用できる制度を確認
自社の賃金テーブルに合わせた調整や、規程への反映、助成金の適否判断までとなると、実務の負荷は一気に上がります。手が回らないと感じたら、お問い合わせからお気軽にご相談ください。
まとめ
2026年度の目安は全国加重平均で55円増の1,176円。引上げ幅こそ昨年度を下回りましたが、水準としては過去最高で、しかも引上げは今後も続く見通しです。
今できることは、大きく3つに整理できます。1つ目は、8月以降に出る自社の都道府県の正式な金額と発効日を確認すること。2つ目は、その日までに時間額換算での棚卸しを終えておくこと。3つ目は、下だけを引き上げるのではなく、賃金テーブル全体の方針を経営として決めておくことです。
発効日が近づいてからの駆け込み対応は、計算ミスも書類の漏れも起きやすくなります。正式な金額が出る前の今の時期に、対象者リストを作っておくところまで進めておくと、その後がずいぶん楽になります。
「うちは誰が対象になるのか」「賃金テーブルをどう組み直せばいいのか」──
Jinji社会保険労務士法人では、最低賃金改定に伴う賃金の棚卸し、賃金テーブルの見直し、雇用契約書の更新(必要に応じた就業規則・賃金規程の見直しを含む)、業務改善助成金の活用まで、貴社の状況に合わせてご相談を承っています。まずはお気軽にお問い合わせください。
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参考
- 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74920.html
- 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html
- 厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/chingin/newpage_43898.html
- 厚生労働省「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/chingin/newpage_43899.html
- 厚生労働省「業務改善助成金」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html
- 最低賃金法(厚生労働省法令等データベース):https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73053000&dataType=0&pageNo=1

