日雇労働者を雇うときの注意点|給与の所得税は「日額表・丙欄」で

繁忙期やイベント対応で、1日単位の日雇労働者・単発アルバイトに来てもらう会社は少なくありません。近年は「タイミー」に代表されるスキマバイト(単発バイト)のマッチングサービスが広がり、必要なときだけ手軽に人手を確保できるようになりました。ただ、手軽になった一方で、「1日だけだから」と手続きや税金の扱いを簡略に考えると、あとで源泉徴収のミスや必要な保険の抜け漏れを指摘されることがあります。経営者・人事労務のご担当者に向けて、日雇労働者を雇うときの労務上の注意点と、給与にかかる所得税(源泉徴収)の正しい取り扱いを整理します。

そもそも「日雇労働者」とは

日雇労働者とは、1日ごと、または30日以内の短い期間を定めて雇い入れられる労働者を指します。呼び方が「日雇い」「単発バイト」「スポット」でも、1日だけの勤務でも、会社と労働者の間には労働契約が成立します。つまり、正社員やパートと同じように、労働基準法などのルールが基本的に適用されるという点が出発点です。「短期だから何もしなくてよい」わけではありません。

雇う際の労務上の注意点

1日限りの雇用でも、次の対応が必要です。

  • 労働条件の明示|賃金、就業場所、業務内容、労働時間、始業・終業時刻などを、雇い入れのときに書面などで明示します(労働基準法第15条)
  • 最低賃金・割増賃金|日雇いでも、勤務地の地域別最低賃金を下回ることはできません。1日8時間や週40時間を超えれば割増賃金も発生します
  • 労災保険|1日だけの雇用でも適用対象です。保険料は全額会社負担で、加入手続きをしていなくても、労災が起きれば会社の責任は問われます
  • 雇用保険・健康保険|日雇いには「日雇労働被保険者」(雇用保険)や「日雇特例被保険者」(健康保険)という専用の区分がありますが、実際にはこれらに該当する場面は限られます。スキマバイトのように、本業や学業のかたわら単発で来てもらうケースでは該当しないことが多く、専用の手続きが必要にならないのが一般的です。日雇いを繰り返して生計を立てている人などでは該当することがあるため、判断に迷う場合だけ個別に確認すれば十分です

給与にかかる所得税|使うのは「日額表の丙欄」

ここが最も間違いが起きやすいところです。日雇労働者に支払う賃金(日雇賃金)の源泉徴収では、通常の月給の社員に使う「月額表」ではなく、給与所得の源泉徴収税額表の「日額表・丙欄(へいらん)」を使います。

丙欄が使えるのは、次のような日雇賃金です。

  • 日々雇い入れられる人が、労働した日または時間によって計算され、働いた日ごとに支払を受ける給与
  • あらかじめ雇用契約の期間が2か月以内と決められているパート・アルバイトの賃金

日額9,800円未満なら所得税は源泉徴収不要

丙欄の大きな特徴は、非課税となる範囲が広いことです。給与の日額が9,800円未満であれば、所得税は源泉徴収されません(令和8年分の日額表・丙欄)。この非課税ラインは、令和7年度の税制改正(基礎控除などの引上げ)に伴って、令和7年分までの9,300円から令和8年分は9,800円に引き上げられました。そのため、少額の単発アルバイトでは、実務上、源泉徴収が発生しないことも多くあります。日額がこれを超える場合は、丙欄の税額に従って所得税を差し引きます。

扶養控除等申告書は不要

月給の社員に甲欄を適用するときは「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出が必要ですが、丙欄を使う日雇賃金では、この申告書の提出は不要です。1日だけの人にわざわざ書いてもらう必要はありません。

落とし穴は「2か月を超えたとき」

注意したいのが期間です。同じ人に継続して2か月を超えて賃金を支払う場合、その2か月を超える部分は日雇賃金に当たらず、丙欄は使えません。最初は2か月以内の約束でも、延長や再雇用で結果的に2か月を超えたときは、超えた日以降は月額表(甲欄・乙欄)に切り替える必要があります。「ずっと丙欄で処理していた」というのは、よくある誤りです。

年末調整はしない

丙欄で源泉徴収した日雇賃金は、会社側での年末調整の対象外です。税金の精算は、原則としてその人自身の確定申告で行われます。会社は、差し引いた所得税を納付し、賃金や源泉徴収額を正しく記録しておきます。年末調整は不要ですが、源泉徴収票の発行、市区町村への給与支払報告書は原則必要です。

すぐ使える|日雇労働者を雇うときのチェックリスト

■ 対象者:______ 勤務日:__月__日 日額:____円

【労務】
☐ 労働条件(賃金・就業場所・業務・時間)を明示した
☐ 日額が勤務地の最低賃金以上か確認した
☐ 労災保険の対象として扱っている


【所得税】
☐ 源泉徴収は「日額表・丙欄」で計算している
☐ 日額9,800円未満は源泉徴収なし/以上は丙欄の税額で徴収(令和8年分)
☐ 同じ人に2か月を超えて支払っていないか(超えたら月額表へ切替)
☐ 賃金・源泉徴収額を記録し、所得税を納付した

「この人は丙欄でよいのか」「2か月を超えそうだがどう切り替えるか」といった判断に迷ったら、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

まとめ

日雇労働者であっても、労働条件の明示や最低賃金、労災といった労務のルールは通常どおり適用されます。給与の所得税は、月額表ではなく日額表の丙欄で計算し、令和8年分では日額9,800円未満なら源泉徴収は不要、扶養控除等申告書も要りません。ただし、同じ人に2か月を超えて支払う場合は丙欄が使えなくなる点だけは、必ず押さえておきたいポイントです。1日だけの雇用でも、入口の手続きと税の処理を正しくしておくことが、後々のトラブルを防ぎます。

「単発の人を雇うが、源泉徴収や保険をどうすればいいか分からない」──日雇・短期の雇用は、労務手続きと税の処理の両方でつまずきやすい場面です。

Jinji社会保険労務士法人では、日雇・短期雇用の労働条件の整備、給与計算・源泉徴収の実務、労災・雇用保険・健康保険の適用判断まで、貴社の状況に合わせてご相談を承っています。まずはお気軽にお問い合わせください。

📞 048-884-9672(平日8:30〜16:30)/ お問い合わせはこちら

参考