「介護休業を取りたい」と言われたら
「親の介護が始まりそうで、しばらく休みたい」──従業員からこう相談されたとき、会社は何をどう進めればよいのでしょうか。介護休業は、育児休業ほど社内にノウハウが溜まっておらず、いざ申し出があってから慌てるケースが少なくありません。この記事では、介護休業の基本の仕組みと、申し出を受けた会社側の対応、そして「フルで休むのではなく短時間で働きながら続けたい」という場合の選択肢まで、経営者・人事労務のご担当者に向けてわかりやすく整理します。2025年4月施行の法改正で会社に新たな義務が加わった点にも触れます。
介護休業とは:まず押さえる3つの数字
介護休業は、要介護状態にある家族を介護するために従業員が取得できる休業です。育児・介護休業法で定められた権利で、就業規則に書いていなくても要件を満たせば取得できます。細かい条文よりも、まずは次の3つの数字を押さえてください。
- 日数:対象家族1人につき通算93日。この範囲で休めます。
- 分割:3回まで。93日を一度に使い切る必要はなく、状況に応じて3回に分けて取得できます。介護は「入院」「施設探し」「看取り」など波があるため、この分割が実務では重要です。
- 給付:休業中は賃金の67%。一定の要件を満たせば雇用保険から「介護休業給付金」が支給されます(93日を限度に、3回まで)。会社が給与を払い続ける必要はありません。ただし給付の対象は実際に休業した場合のみです。後述の短時間勤務のように「働きながら両立」を選んだ日は、この給付の対象外になります。
対象となる家族は、配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫などです。「要介護状態」とは、常時介護を必要とする状態が2週間以上続くことを指し、必ずしも要介護認定を受けている必要はありません。
なお、労使協定を結べば、次の3つに当てはまる従業員は介護休業の対象外にできます。①入社1年未満、②申出日から93日以内に雇用関係が終了することが明らかな人、③週の所定労働日数が2日以下の人。逆にいえば、これに当てはまらない従業員からの申し出は断れません。
「介護休業を取りたい」と言われたら:会社がやること
従業員から申し出があったときの流れは、次のように整理できます。特別な資格や書類の専門知識がなくても、順番どおり進めれば対応できます。
- 申し出を受け付ける(申出書の提出):開始予定日の2週間前までに申し出るのが原則です。口頭でも成立はしますが、多くの会社は育児・介護休業規程で「介護休業申出書」を事業主に提出する流れを定めています。この申出書は後の給付金申請でも添付が必要になるため、書面で受け取り記録を残します。
- 対象家族・状況を確認する:誰を、どのくらいの期間介護するのかを聞き取ります。要介護状態の確認はできますが、診断書の提出まで一律に義務づけることはできません。
- 給付金の案内をする:介護休業給付金はハローワークへの申請が必要で、申請には先ほどの介護休業申出書の添付が求められます。手続きは会社経由で行うのが一般的なので、「給付が受けられること」と「対象は実際に休業した日であること(短時間就労の日は対象外)」を伝えます。
- 復帰と働き方を話し合う:フルで休むのか、短時間勤務など別の制度と組み合わせるのか、本人の希望を聞きます(次章で解説)。
- 不利益な取り扱いをしない:介護休業の申し出や取得を理由に、解雇・減給・降格・不利益な配置転換をすることは法律で禁止されています。ここは特に注意が必要です。
あわせて、2025年4月からは介護に直面した従業員に対し、会社から介護休業などの制度を個別に説明し、利用の意向を確認することが義務になりました。「本人が言ってこなかったから」では済まされず、会社側から情報を届ける姿勢が求められています。
「休むより短時間で働きたい」場合の選択肢
介護は数年単位で続くこともあり、「93日をすべて使って完全に休む」よりも、働きながら介護と両立したいという希望は多くあります。介護休業以外にも、会社が用意しておくべき制度があります。
- 短時間勤務等の措置:会社は、短時間勤務・フレックスタイム・始業終業時刻の繰上げ繰下げ・介護費用の助成のうちいずれか1つ以上を用意する義務があります。対象家族1人につき、利用開始から3年以上の期間で2回以上使える形にする必要があります。なお、短時間勤務で働いた日は介護休業給付金の対象にはなりません(給付は休業した日が対象)。両立を選ぶ場合は、本人にこの点も説明しておくと安心です。
- 介護休暇:通院の付き添いや手続きのために、年5日(対象家族が2人以上なら10日)取得できる休暇です。1日単位だけでなく時間単位でも取得できます。2025年4月からは、勤続6か月未満の従業員を労使協定で除外する扱いが廃止され、入社間もない人でも取得できるようになりました。
- 残業・深夜業の制限:介護をする従業員が請求すれば、時間外労働を制限(1か月24時間・1年150時間まで)したり、残業や深夜業を免除したりすることができます。
これらは「介護休業か、通常勤務か」の二択ではなく、組み合わせて使えるのがポイントです。短時間勤務を軸にしつつ、急な入院時だけ介護休業を使う、といった柔軟な設計が離職防止につながります。実際の運用でお悩みの際は、当事務所の相談事例もご参考にしてください。
すぐ使える|介護休業の申し出 受付チェックリスト
従業員から申し出があったとき、社内で確認する項目です。コピーして受付メモにお使いください。
- ☐ 申し出日・介護休業の開始予定日/終了予定日:____
- ☐ 対象家族(続柄)と要介護の状況:____
- ☐ 希望する取り方(一括/分割・想定回数):____
- ☐ 介護休業給付金の案内を実施したか:☐済
- ☐ 短時間勤務・介護休暇など他制度の希望を確認したか:☐済
- ☐ 就業規則(育児・介護休業規程)が最新の法改正に対応しているか:☐要確認
最後の「規程が改正に対応しているか」は特に見落とされがちです。自社の規程点検や、従業員への個別周知の進め方でお困りの際は、当事務所へご相談ください。
まとめ:制度を「知っている会社」が選ばれる時代に
介護休業は「通算93日・3回分割・給付67%」が基本形。そこに短時間勤務や介護休暇を組み合わせれば、貴重な人材を辞めさせずに済みます。2025年4月の法改正で、会社から制度を説明する義務も加わりました。介護はどの従業員にも起こりうる問題です。申し出があってから慌てるのではなく、いまのうちに自社の規程と対応の流れを整えておくことが、結果的に採用力・定着率の強化にもつながります。
「うちの就業規則、2025年の改正に対応できている?」──不安を感じたら、点検からでも大丈夫です。
Jinji社会保険労務士法人では、育児・介護休業規程の見直し、介護休業給付金の手続き代行、従業員への個別周知・両立支援の体制づくりまでご相談を承っています。まずはお気軽にお問い合わせください。
📞 048-884-9672(平日8:30〜16:30)/ お問い合わせはこちら
参考
- 厚生労働省「介護休業制度特設サイト」:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/
- 厚生労働省「法改正のポイント(2025年4月施行)」:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/law-amendment/
- 厚生労働省「短時間勤務等の措置」:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/shortworking/
- 厚生労働省「Q&A〜介護休業給付〜」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158665.html


