2026年10月1日施行の法改正まとめ

2026年10月1日は、人事労務に関わる制度の改正がいくつか重なった日になりました。カスタマーハラスメント対策の義務化、パート・有期・派遣の同一労働同一賃金ルールの改正、社会保険の「106万円の壁」撤廃、最低賃金の改定。対象も影響の大きさもそれぞれ違うため、どれが自社に関係するのかは整理しないと見えにくいところです。この記事では2026年10月1日施行の改正を一覧にし、今月やること、年内にやることに分けて示します。

2026年10月1日施行の法改正・制度変更(一覧)

厚生労働省が公表した「主な制度変更(令和8年10月)」から、会社に影響するものを並べます。

  • カスタマーハラスメント対策の義務化:労働者を雇うすべての事業主。企業規模による猶予はありません。
  • 求職者等に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)対策の義務化:採用活動・インターンシップ・実習を行うすべての事業主。
  • パート・有期雇用労働法および労働者派遣法の改正:雇入れ時の明示事項追加、同一労働同一賃金ガイドラインの見直し。
  • 社会保険の賃金要件(月額8.8万円)撤廃:短時間労働者を雇う企業。いわゆる「106万円の壁」の撤廃です。
  • 保険料調整制度の開始:主に従業員50人以下で、任意に社会保険の適用拡大をする事業所。
  • 最低賃金の改定:全国加重平均1,177円(+56円)。発効日は10月1日から12月2日まで都道府県ごとに異なります。
  • 国民年金保険料の育児期間免除の創設:第1号被保険者(自営業・フリーランス・学生など)。

このうち規模・業種を問わず全社に関係するのはハラスメント対策の2件です。まずここを確認するのが順序としてわかりやすいと思います。

カスハラ対策の義務化|相談窓口の設置だけでは終わらない

指針では、①顧客等の言動であり、②業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超え、③労働者の就業環境が害されるもの、という3要素をすべて満たすものがカスハラとされました。苦情のすべてが該当するわけではない、という線引きが明記されています。

「顧客等」には商品購入者やサービス利用者だけでなく、取引先の担当者、施設利用者とその家族、施設の近隣住民まで含まれます。電話やSNS上の言動も対象です。小売・飲食・医療介護に限らず、BtoBの会社でも取引先担当者からの言動が対象になり得ます。

義務となる措置(指針で示された10項目)

  1. カスハラには毅然と対応し労働者を保護する方針を明確化し、周知・啓発する
  2. カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する
  3. 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
  4. 相談窓口担当者が適切に対応できるようにする
  5. 事実関係を迅速かつ正確に確認する
  6. 被害を受けた労働者への配慮の措置を適正に行う
  7. 再発防止に向けた措置を講ずる
  8. 特に悪質なカスハラへの対処方針を定め、労働者に周知し、実行できる体制を整える
  9. 相談者等のプライバシーを保護する措置を講じ、周知する
  10. 相談したこと等を理由に不利益な取扱いをしない旨を定め、周知・啓発する

パワハラ対策と重なる部分が多い一方、②の「対処の内容」と⑧の「悪質事案への対処方針」はカスハラ特有です。その場で管理監督者に指示を仰ぐ、可能な限り一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察に通報する。こうした行動基準をあらかじめ決めて現場に伝えておくことが求められます。詳しい進め方は当事務所のカスハラ・求職者等セクハラ義務化の解説記事でも整理しています。

就活セクハラでは、方針の明確化・周知に加えて求職活動等のルール(面談の時間・場所の指定、実施体制、やり取りに使うSNSの種類の指定など)の明確化と、求職者向け相談窓口の周知が義務になりました。採用担当者が個人のSNSで学生と連絡を取っている場合は、早めに見直しておきたいところです。

パート・有期・派遣|雇入れ時の明示事項が1つ増えた

パート・有期雇用労働者の雇入れ時の明示事項に、「正社員との待遇の相違の内容や理由等について説明を求めることができる」旨が追加されました。従来の4項目(昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口)に1項目加わる形です。労働者派遣でも、雇入れ時・派遣時の明示事項に同じ内容が加わりました。

あわせて同一労働同一賃金ガイドラインが裁判例を踏まえて見直され、家族手当、住宅手当、夏季冬季休暇などの記載が明確化されています。待遇差の説明方法も、資料を活用した口頭説明か、説明事項を記載した資料の交付のいずれかによることとされました。

実務の入口は労働条件通知書の様式差し替えです。あわせて賞与や各種手当の支給基準を「正社員だから/パートだから」で区切っていないか点検しておくと、説明を求められたときに困りません。概要は同一労働同一賃金改正のお知らせでも触れています。

社会保険|「106万円の壁」の撤廃と、残る加入要件

短時間労働者の加入要件のうち、所定内賃金が月額8.8万円以上という賃金要件が撤廃されました。残る要件は、週の所定労働時間が20時間以上、学生でないこと、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業(特定適用事業所)であること、2か月以内の期間を定めた雇用でないこと。賃金の額で判断する部分がなくなり、加入するかどうかは週の所定労働時間と企業規模で決まることになりました。

最低賃金の上昇で、週20時間働けば自動的に月8.8万円を超える状況になっていたため、新たに加入対象となる人は実務上そう多くありません。ただ「106万円の壁」という言葉は働く人に浸透しており、シフトの相談や年末の扶養の話で話題に出ます。担当者が聞かれたときに正しく答えられる状態にしておくのが備えの中心です。健康保険の被扶養者認定(いわゆる130万円の壁)は別制度として残っています。

企業規模要件は今後も段階的に縮小し、2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上と下がったうえで、2035年10月に撤廃される予定です。いま50人以下の会社も、順次対象になっていきます。

保険料調整制度|50人以下の会社が先に動くための仕組み

2026年10月1日以降に任意特定適用事業所となった事業所などを対象に、保険料調整制度が始まりました。標準報酬月額12.6万円以下の短時間労働者について、事業主が保険料の一部を一時的に追加負担することで、通算3年間、本人の負担を軽減できる制度です。追加負担分は後に還付され(3か月後の保険料額から差し引き)、最終的に事業主が納める保険料は増えません。3年目の軽減割合は1〜2年目の半分です。

注意点として、2026年9月30日以前に任意特定適用事業所となった事業所は対象外です。利用には期限内に「保険料調整開始申出書」の提出が必要です。人手の確保を優先して先に適用拡大へ踏み出すなら、検討の価値がある制度です。

最低賃金|発効日は都道府県ごとに違う

2026年度の地域別最低賃金は全都道府県で時間額54円から65円の引上げとなり、全国加重平均は1,177円になりました。発効日は10月1日から12月2日まで都道府県ごとに異なり、東京都は10月1日、山形県は10月30日などと分かれます。複数県に事業所がある会社は拠点ごとに改定日を押さえてください。

点検は時給者だけでは足りません。月給者を時間単価に換算したときに最低賃金を下回らないか、精皆勤手当や家族手当など算入対象から除外される手当を含めて計算していないか。この2点が見落としの起きやすいところです。手順は最低賃金の引上げと賃金チェック3ステップにまとめています。

国民年金の育児期間免除|従業員から質問が来る制度

国民年金第1号被保険者が子を養育する場合、子が1歳になるまでの保険料が、所得に関係なく届出により免除される制度が創設されました。免除期間も保険料を納付したものとして老齢基礎年金に反映されます。会社の手続きではありませんが、従業員の配偶者が自営業やフリーランスというケースは珍しくありません。聞かれたときに「市区町村の窓口へ届出が必要」と案内できれば十分です。

対応の優先順位|今月やること、年内にやること

  1. 今月:カスハラ・就活セクハラの方針を文書にする。規程に条項を追加し、相談窓口と現場の対応ルールを決めて周知します。義務は10月1日から発生しているため最優先です。
  2. 今月:拠点ごとの最低賃金発効日を確認する。改定日の属する賃金計算期間から適用になります。月給者の時間単価換算もあわせて点検します。
  3. 年内:パート・有期・派遣の労働条件通知書を差し替える。10月1日以降に新たに雇い入れる人、有期契約を更新する人が対象です。
  4. 年内:短時間労働者の加入状況を棚卸しする。週20時間以上で未加入の人がいないか。50人以下の会社は任意適用と保険料調整制度を使うかを経営判断として検討します。
  5. 継続:管理職と採用担当者への周知・研修。指針では労働者への周知も措置の一部とされています。

すぐ使える|2026年10月施行対応チェックリスト

  • ☐ カスハラ対応の方針を文書化した(規程名:________)
  • ☐ カスハラ・就活セクハラの相談窓口を決め、周知した(窓口:________)
  • ☐ 現場の対応ルールを決めた(一人で対応させない/管理者に指示を仰ぐ/警察通報の基準)
  • ☐ 悪質事案への対処方針を定め、労働者に周知した
  • ☐ 相談者のプライバシー保護と不利益取扱いの禁止を定め、周知した
  • ☐ 採用面談のルール(時間・場所・体制・使用するSNS)を明確化し、周知した
  • ☐ パート・有期・派遣の労働条件通知書に「待遇の相違の説明を求めることができる」旨を追加した
  • ☐ 家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇の支給対象を点検した
  • ☐ 自社の最低賃金発効日を確認した(拠点:_____/発効日:__月__日)
  • ☐ 月給者の時間単価が最低賃金を上回っているか確認した
  • ☐ 週20時間以上で社会保険未加入の短時間労働者がいないか確認した
  • ☐ (50人以下の場合)任意適用と保険料調整制度を使うか検討した
  • ☐ 管理職・採用担当者への周知または研修を実施した(実施日:__月__日)

規程の条文化、業種・取引構造に合わせた対応ルールの設計、労働条件通知書の様式づくりは会社ごとに中身が変わります。迷う部分は当事務所までご相談ください。

まとめ

2026年10月1日の改正は、性質の違う3種類に分かれます。全社が対応すべき義務(ハラスメント対策)、書類と運用の差し替えで対応できるもの(明示事項、最低賃金)、数年先を見た経営判断につながるもの(社会保険の適用拡大と保険料調整制度)。この3つを同じ重さで扱うと、優先順位がつけにくくなります。

まず規程と相談窓口を整えて義務の部分を満たす。次に通知書と賃金を見直す。そのうえで、適用拡大が自社に届く時期を逆算してパート人員の構成を考える。この順序であれば、無理なく進められるはずです。


規程に条項を追加しただけでは、指針が求める措置を満たしていないケースもあります。

Jinji社会保険労務士法人では、カスハラ・就活セクハラ対応規程の整備、労働条件通知書と同一労働同一賃金の点検、社会保険の適用拡大シミュレーションのご相談を承っています。まずはお気軽にお問い合わせください。

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